ベンゾジアゼピンの減薬方法
Ⅰー⑴.注意事項
冒頭、当会は医療者ではないため、無責任な減薬方法をご教示できません。したがって、ベンゾジアゼピンの具体的な減薬方法及びベンゾジアゼピン副作用の治療方法は専門医にご相談されることをお勧めします。当会ができるのは、責任ある範囲の以下の助言にとどまりますので、ご理解ください。
1.ベンゾジアゼピンは2-4週間を超えて連用すると薬物依存(依存症)を発症する危険性があります。
2.依存症の状態下で、急激に減薬又は断薬すると、多くの場合離脱症状を発症し、多様な神経症状及び精神症状を発症する危険性があります。
3.依存症は、身体依存及び精神依存の2つがあり、ベンゾジアゼピンの場合、主として身体依存が問題となります。「常用量依存存(臨床用量依存)」と呼ばれ、離脱症状のため減断薬できない患者であり、現在、最大の問題とされています。
4.依存症には発症閾値があり、一般的には2700mg(ジアゼパム換算)が提唱されていますが、それ以下でも発症することがあり、服用するベンゾジアゼピンの力価、服用頻度、服用方法及び個体差などが影響します。
5.高力価のベンゾジアゼピン(例えば、クロナゼパム)では、短期間で依存症の発症閾値に到達します。
6.急激な減薬・断薬又は変薬により重篤な離脱症状を発症すると、離脱症状は遷延化し、数年にわたり継続することがあります。
7.ベンゾジアゼピンの減薬は専門医の管理下で、複数年にわたり、緩徐に減薬する必要があります。ベンゾジアゼピンは「増量は簡単だが、減薬が難しい薬」と言われおり、薬物依存状態になるためです。ベンゾジアゼピンは、他の依存性薬物(大麻等)と同様に、国連の国際麻薬統制委員会(INCB)が国際管理しています。
8.減薬治療は、入院管理下(精神科)で、治療を開始されることが推奨されており、その他の疾患(身体疾患等)がある場合、二重管理病棟へ入院下で、ベンゾジアゼピンを減薬することが推奨されています。
9.ベンゾジアゼピンを減薬する際に生じる神経及び精神症状を緩和するため、抗うつ薬等の他の薬剤を併用する方法が提唱されています。併用する抗うつ薬等自体にも副作用があるため、その選択は専門医に相談する必要があります。
10.ベンゾジアゼピンには、原疾患とは関係なく、❶薬物依存(依存症)、❷離脱症状、❸奇異反応(鎮静と逆反応の易怒性等)の副作用の他にも多様な副作用があり、その詳細は、製薬会社が発行する「医薬品添付文書」を参照(下記)できます。
11.自己判断でのベンゾジアゼピンの減薬は大変危険です。重篤な離脱症状を発症するリスクがあるため、必ず、専門医の管理下で施行する必要があります。
12.ベンゾジアゼピンを服用することになった原疾患が治癒していない場合、ベンゾジアゼピンの服用を継続するかどうかは、専門医に相談する必要があります。不安障害や不眠などの「原疾患」が残存する場合、両方の治療が必要になります。
13.特に、ベンゾジアゼピンの副作用は、原疾患の有無及び病態とは関係なく存在するため、減薬の必要性は専門医とよく相談することが重要です。
14.適正なベンゾジアゼピンの減薬治療が行われた場合、その後に複数年が経過しても症状が継続していれば、ベンゾジアゼピンの副作用ではなく、別の疾患の可能性があるため、専門医と十分ご相談ください。
15.ベンゾジアゼピンに関する治療は、「ベンゾジアゼピン副作用に理解のある専門医」を探すことが最重要です。現状、そのような専門医が少ないことが問題ですが、すでに、下記の資料のとおり、ベンゾジアゼピン副作用は厚生労働省及びPMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)が警告しているため、大学病院等には副作用の治療及び適正な処方方法に理解ある医師が必ず存在します。
16.ベンゾジアゼピンの副作用により生じた症状に対し、他のベンゾジアゼピンを処方すること(多剤処方)が長く行われてきましたが、ベンゾジアゼピン副作用を他のベンゾジアゼピンで治療することは意味がなく危険です。
17.長期間の治療になるため、入院及び長期間の通院が可能な地理的条件に合う医療機関を探すことも重要です。
18.ベンゾジアゼピンは、重い依存性があったバルビツール酸の後継薬として登場したため、日本では長きにわたり「ベンゾジアゼピンは依存性がない安全な薬」と誤解されてきたため、処方する医師ら(内科等の一般診療科医)はベンゾジアゼピンの副作用の重篤さを十分に理解していないか、または、処方した責任を問われること(注意義務違反)を回避するため、ベンゾジアゼピンの副作用であることを認めずに、別の疾患(自律神経失調症、うつ病、統合失調症、身体表現性障害等)などに摩り替えることが日常的に行われているため、患者自身が注意する必要があります。
19.まとめ
ベンゾジアゼピン薬物依存症の治療は、数年の緩徐な減薬治療が必要であり、急激な減薬は重篤な離脱症状の恐れがあります。また、不安障害や不眠などの「原疾患」が残存する場合、両方の治療が必要になります。ともに、専門医の治療が必要です。
一気、又は、急激な減薬によるベンゾジアゼピン離脱症状の治療方法は、再度、相当量のベンゾジアゼピンの服用を再開して、一旦、離脱症状を鎮静化後に、緩徐にベンゾジアゼピンを減薬する方法が、大学病院等で施行している離脱症状の治療方法です。緩徐な減薬とは、服用したベンゾジアゼピンの力価にもよりますが、通常、数年間の長期の減薬治療です。急速な減薬は、遷延性の離脱症候群に罹患し、一層、治療が困難になります。また、離脱症状とは別に、「原疾患」があれば、別途の治療が必要になります。患者自身が「原疾患をベンゾジアゼピン離脱症状と混在させて誤解している」こともあり、治療が難しくなります。いずれにしても、専門医の管理下で減薬治療を受けることが必須であり、自己管理のベンゾジアゼピン減薬は極めて危険であり、短期間かつ小容量の服用の場合を除いて、実際、不可能です。また、離脱症状の発症後に、原因薬物の再服用に抵抗があるのは事実ですが、ベンゾジアゼピンによる薬物依存状態にあるため、急性期治療の第1歩は、「原因薬物(ベンゾジアゼピン)の再服用」しかありません。極めて、急性期治療であれば、ベンゾジアゼピンの静脈注射による、応急的鎮静化が施行されています。
N大学病院のA医師によれば、『ベンゾジアゼピンは増量は簡単だか、減量が難しい薬で、長期間にわたり連用するのは危険。服用は、短期間に限るべき。』との意見であり、ベンゾジアゼピン医薬品添付文書に警告される「重大な副作用(常用量依存=臨床用量依存)」のとおりです。
Ⅰ-⑵.ICD-10(疾病及び関連保健問題の国際統計分類、WHO)
WHOの「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」において、ベンゾジアゼピンによる疾患は以下が定義されています。したがって、国際的に「ベンゾジアゼピン薬物依存症及び中毒」は、広く認められている疾患であり、医療行為における処方薬物に起因する「医原性疾患」であることが周知です。詳細は下記のファイルをご参照ください。
❶ F13 鎮静薬又は催眠薬使用による精神及び行動の障害
F13.0 鎮静薬又は催眠薬使用による精神及び行動の障害,急性中毒
F13.1 鎮静薬又は催眠薬使用による精神及び行動の障害,有害な使用
F13.2 鎮静薬又は催眠薬使用による精神及び行動の障害,依存症候群
F13.3 鎮静薬又は催眠薬使用による精神及び行動の障害,離脱状態
F13.4 鎮静薬又は催眠薬使用による精神及び行動の障害,せん妄を伴う離脱状態
F13.5 鎮静薬又は催眠薬使用による精神及び行動の障害,精神病性障害
F13.6 鎮静薬又は催眠薬使用による精神及び行動の障害,健忘症群
F13.7 鎮静薬又は催眠薬使用による精神及び行動の障害,残遺性及び遅発性の精神病性障害
F13.8 鎮静薬又は催眠薬使用による精神及び行動の障害,その他の精神及び行動の障害
F13.9 鎮静薬又は催眠薬使用による精神及び行動の障害,詳細不明の精神及び行動の障害
❷ T42 抗てんかん薬,鎮静・催眠薬及び抗パーキンソン病薬による中毒
T42.0 抗てんかん薬,鎮静・催眠薬及び抗パーキンソン病薬による中毒,ヒダントイン誘導体
T42.1 抗てんかん薬,鎮静・催眠薬及び抗パーキンソン病薬による中毒,イミノスチルベン類
T42.2 抗てんかん薬,鎮静・催眠薬及び抗パーキンソン病薬による中毒,コハク酸イミド類及びオキサゾリジンジオン類
T42.3 抗てんかん薬,鎮静・催眠薬及び抗パーキンソン病薬による中毒,バルビツレート
T42.4 抗てんかん薬,鎮静・催眠薬及び抗パーキンソン病薬による中毒,ベンゾジアゼピン類
T42.5 抗てんかん薬,鎮静・催眠薬及び抗パーキンソン病薬による中毒,抗てんかん薬の合剤,他に分類されないもの
T42.6 抗てんかん薬,鎮静・催眠薬及び抗パーキンソン病薬による中毒,その他の抗てんかん薬及び鎮静・催眠薬
T42.7 抗てんかん薬,鎮静・催眠薬及び抗パーキンソン病薬による中毒,抗てんかん薬及び鎮静・催眠薬,詳細不明
T42.8 抗てんかん薬,鎮静・催眠薬及び抗パーキンソン病薬による中毒,抗パーキンソン病薬及びその他の中枢性筋し<弛>緩薬
Ⅱ.ベンゾジアゼピン減薬時の参考となる医学文献
ベンゾジアゼピンの減薬方法の医学文献は、以下の文献があります。
1.アシュトンマニュアル
ベンゾジアゼピン問題を先行して警告してきた英国のアシュトン教授の医学文献です。ベンゾジアゼピンの副作用及び減薬方法などが記載されており、減薬方法は具体的なスケジュールなどが例示されています。
2.睡眠薬を上手に減らすには
ベンゾジアゼピンの服薬の継続必要性及び早期に減薬することについて、患者が十分に理解することの重要性を示しています。特に不眠でベンゾジアゼピンを服用する場合、長期間にわたり連用することは危険であるため、生活改善等の薬物に頼らない治療が重要です。
3.鎮静薬,睡眠薬,または抗不安薬使用障害の対応と治療
基本的には「1.アシュトンマニュアル」と同じです。日本の医療者による文献であり、服用するベンゾジアゼピンをジアゼパム換算して、「緩徐」に減薬することを説明しています。それでも減薬できない場合、服用の継続を勧めているが、無用な服用(常用量依存患者)を継続することがないように治療を進める必要性があります。
Ⅲ.ベンゾジアゼピンのジアゼパム換算(総処方用量の確認)
1.ベンゾジアゼピンの力価(総処方用量)の把握
最初に、服用したベンゾジアゼピンの力価(総処方用量)を把握することが重要です。ベンゾジアゼピンには数十種類が存在し、薬種ごとに❶力価、❷半減期が異なり、対象疾患及び病態ごとに処方薬が異なります。
その計算方法は、すべてのベンゾジアゼピンを基準薬のジアゼパムに換算する方法を採ります。その計算方法は、対象のベンゾジアゼピンについて、ジアゼパム5mgと等価の用量(換算係数)が研究され公開されています。この係数は厚生労働省の厚生労働科学研究費補助金各研究事業でも採用されています。
例えば、ソラナックス(アルプラゾラム、alprazolam)の場合、換算係数は「0.8」なので、ジアゼパム5mgと等価のソラナックスは0.8mgとなります。1日当たりソラナックス0.8mg/錠✖3錠を1か月服用すると、
0.8/0.8✖5mg✖3回✖31日=465mg/月(ジアゼパム換算)
これを1年間継続すると、
465✖12月=5580mg/年(同)となり、完全に依存症の状態になります。
代用的なベンゾジアゼピンの換算表にExcel(右表)があります。複数のベンゾジアゼピンを服用する場合、その合計用量を求めます。
まず、この総処方用量を基にして、減薬治療を開始することになります。
2.ベンゾジアゼピンの半減期の把握
ベンゾジアゼピン毎に半減期が異なります。例えば、睡眠剤として処方する場合、入眠専門であれば「短時間作動型」、長時間の鎮静効果であれば「長時間作動型」が処方されます。短時間型の場合、血中濃度の変化が大きいため離脱症状が出やすいとされますが、用量とも関係するため、一概には決まりません。
また、長時間作動型の場合、高齢者では昼間に転倒・骨折のリスクが大きくなることが知られています。したがって、離脱症状の重篤度は「処方用量に相関」するため、半減期と離脱症状の重篤度の関係は相関が特定されていません(DSM-5、精神障害の診断と統計マニュアル、アメリカ精神医学会)。代表的なベンゾジアゼピンの力価と半減期を右図(付図A1)に示します。処方用量にもよりますが、一般的に、左下の領域のベンゾジアゼピンが副作用の危険性が高くなります。
3.ベンゾジアゼピンの減薬速度
減薬速度は、現在の1日服用量(ジアゼパム換算量)を基準として、減薬量を決める。文献例をあげると、『減薬ペースについては,外来で治療する場合には,等価換算量よりも少し多目の量から開始し最初の 4週間は減量せずに, 5週日から l週ごとにジアゼパム 1mgずつ減量し,ジアゼパム換算量が 30mg/日を切ったら 2週に 0.5mgずつ, 15 mg/日を切ったら 4週に 0.5mgずつ減らしていく.そして,6 mg/日まで減量できたらいったん減薬を止め,併存精神障害の治療状況や精神症状,さらに離脱症状を確認してから,今後の減薬方針(断薬か,極めてゆっくり減薬か,少量維持か)を検討する。』とされる。
したがって、上記1.のソラナックスの例では、15mg→6mg=9mgであるから、6mg/日までの減薬に、9mg/0.5mg✖4週=72週間の約1年半かかる。そして、6mg/日からは、さらに緩徐に減薬する必要があり、また、途中で離脱症状を発症すれば、減薬せずに用量を維持するため、さらに減薬期間は長くなる。極めて、小用量の調整が必要なため、錠剤ではなく、散剤で処方されることが多い。この事例では短くとも約2年の減薬治療が必要となります。これより短期間での減薬は、重篤な離脱症状を発症するリスクがあります。
また、服用期間が長くなれば、ベンゾジアゼピンによる本来の脳機能のダウンレギュレーションを回復させるために、さらに長い減薬期間が必要となり、減薬治療期間は服用期間に近い期間となることもあります。
Ⅳ.医薬品添付文書
「医薬品添付文書」とは、医療者(医師及び薬剤師)が処方する場合に参照すべき文書であり、各製薬会社が公開しています。掲載内容は、適応疾患、処方用量、処方頻度、副作用、その他の警告などが記載されています。代表的なベンゾジアゼピンの医薬品添付文書を下に掲載します。処方する医療者がベンゾジアゼピンの副作用等を把握しているとは限らないので、医療者の責任である「処方時の副作用情報の説明」(インフォームド・コンセント)が十分に行われていないことが多いため、服用前に患者自身がベンゾジアゼピンの副作用を十分に把握しておくことが重要です。
Ⅴ.まとめ
ベンゾジアゼピンの減薬治療は、専門医の管理下で施行する必要があり、減薬には長い期間が必要で「増量は簡単だが、減薬は難しい薬」のため、2-4週間を超えて服用することは、「常用量依存」に陥る危険性が高く、また、大きな副作用のリスクを伴います。
一方、ベンゾジアゼピンは「急性期の鎮静効果」しかなく、原疾患を治癒させる効果(作用機序)は乏しく、症状の鎮静を目的に長期間にわたり服用するメリットは小さいため、服用期間が延びれば延びるほど、デメリット(依存、離脱、奇異反応)が大きくなっていきます。
したがって、ベンゾジアゼピンは「急性期の鎮静」に限定して処方されるべき薬物であり、重篤な副作用や減薬時の離脱症状等を考慮すると、長期間にわたり服用するメリットはまったくありません。
これらの問題を解決するため、喫緊に、
❶ すでにベンゾジアゼピン依存症となった患者の適正な治療
❷ 新規のベンゾジアゼピン依存症の患者を生じない適正な処方 が求められています。
<準備中>
減薬事例(名古屋市立大学病院)患者:多田雅史
全国ベンゾジアゼピン薬害連絡協議会(BYA)